広告アカウントの名義と終了時の引継ぎ

集客支援の仕事はアカウントの中で行われます。契約が終わったときに配信の履歴や顧客の情報ごと引き継げるかは、名義で決まります。

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代行会社の名義で作った広告アカウントは、契約が終わると、配信の履歴も学習のデータも発注者の手元に残りません。

このページの要点

  • アカウントの所有権・管理権限・媒体上の契約主体は発注者とし、受注者には必要な範囲の作業権限だけを付与する。
  • 権限の付与が遅れた間は受注者が遅延の責任を負わないこと、受注者のノウハウは受注者に残ることを書く。
  • 未払いでも、発注者の名義のアカウント・個人データ・認証情報は留保しない。報酬は前払いと業務停止の条で守る。
  • 終了時の権限の返還・削除の期限、引継ぎの形式、完了の報告を決める。計測ツールの権限のレベルも指定する。

結論:アカウントは広告主の名義、受注者には必要な権限だけを渡す

広告アカウント(Google広告やMeta広告の管理画面で、広告・予算・配信の履歴をまとめる単位)、ビジネスマネージャ、計測タグ、Googleアナリティクス、MAツール、LINE公式アカウント、Googleビジネスプロフィール。集客支援の仕事は、これらのアカウントの中で行われます。契約が終わったとき、配信の履歴や学習のデータ、顧客の情報ごとアカウントを引き継げるかどうかは、誰の名義で作ったかで決まります。事務所の書類は、受注者の側でも発注者の側でも、次の考え方で一致しています。

  1. アカウントの所有権・管理権限・媒体との契約の主体は、広告主(発注者)とする。新しく作るアカウントも、発注者が所有者・管理者になる方法で作る。
  2. 受注者には、業務に必要な範囲の作業権限だけを付与する。権限の付与が遅れた間は、受注者は遅延の責任を負わない。
  3. 受注者のノウハウ・テンプレート・運用の手法は受注者に残す。
  4. 契約終了時の権限の削除と引継ぎの手順・期限を決める。未払いがあっても止めてはいけないものを決める。

このページでは、この4点を事務所の書類から紹介します。制作物の権利は制作物の権利と実績公開、Googleビジネスプロフィールの権限の詳細はMEO・SEO・口コミの契約で扱います。

受注者の側の書き方:整備は発注者、権限は必要な範囲

個人の広告運用者が受注者となる基本契約では、アカウントの条を次のように書いています。

条文例アカウント等の整備と帰属(個人の広告運用者の基本契約の考え方)

  1. 広告アカウント、ビジネスマネージャ、タグ、計測環境及び閲覧権限は、甲が自己の費用で整備し、乙に必要な権限を付与する。
  2. 甲による権限の付与が遅れた期間について、乙は履行遅滞の責任を負わない。
  3. 広告アカウントの所有権、管理権限及び広告媒体上の契約主体は、甲とする。
  4. 乙が本業務に用いるノウハウ、テンプレート、設定の考え方、運用手法、分析手法及びツールは、乙に帰属する。

事務所の書類の条文を一般化した例です。

2項は、権限がもらえないまま「まだ配信が始まらない」と責められる場面に、4項は、契約が終わった後に受注者の運用の手法まで発注者のものだと主張される場面に、それぞれ備えています。採用支援・Web広告の基本契約(クライアント向け)でも、広告アカウントの所有権・管理権限は原則として発注者とし、受注者は必要な範囲で権限を付与され、終了後は発注者の求めに応じて、媒体の仕様上可能な範囲で権限の削除と引継ぎに協力すると定めました。「媒体の仕様上可能な範囲で」と書くのは、媒体によっては権限の移し方に制約があるためです。

MAツールのローンチの構築・運用を個人で受ける契約は、ツールの操作の権限を細かく制限しています。

MAツールの構築・運用の契約(最終版)がアカウントについて決めたこと

  • MAツールと連携するサービスは発注者の名義・発注者の費用で契約し、受注者には最小限の作業権限を付与する。
  • 受注者は、発注者の事前の承諾なく、有料オプションの申込み、料金プランの変更、入金先の口座・管理者・ドメインの設定の変更、返金や決済の取消しをしない。
  • バックアップは発注者が行う。
  • 終了時は、設定の一覧を受け取った日と終了後14日を経過した日のいずれか早い日の後に、発注者が受注者の権限を削除する。引継ぎの業務中と、発注者の支払の遅延中は削除しない。
  • 終了後に第三者がした行為について、受注者は責任を負わない。

このご相談への最初の回答書では、スタッフ用の権限を必要最小限で付与すること、二段階認証を使うこと、終了時の権限の削除とパスワードの変更は発注者が行うこと、LINE公式アカウント・決済・ドメインも発注者の名義とし、受注者は管理者ではなく作業の権限にとどめることを勧めました。受注者が入金先や管理者の設定を触れる状態にしておくと、何か起きたときに真っ先に疑われるのは受注者だからです。

ヒヤリングの問いと理由MAツールの構築・運用を受ける前のヒヤリング(76問から、アカウントに関する問い)

  1. MAツールの契約の名義と、利用料の支払者は誰ですか。

    名義と支払者が受注者だと、終了時に構築物ごと引き継げません。発注者の名義・発注者の支払にするのが基本です。

  2. ログインは、スタッフ用の権限を発行しますか、それともIDとパスワードを共有しますか。

    共有のIDでは、誰が何を操作したか記録に残りません。スタッフ用の権限なら、終了時にその権限を削除するだけで済みます。

  3. 顧客のデータをダウンロードして手元に保存することはありますか。

    保存するなら、個人データの取扱いの委託として、保存の場所・期間・終了時の削除を決めます。保存しない運用なら、その旨を書きます。

  4. 終了時の引継ぎは、どこまでを月額に含めますか。

    設定の一覧の引渡しまでを月額に含め、それを超える手順書の作成や後任者への説明を有償にするかを決めます。

AIを使った発信基盤の構築・運用の追加契約では、対象の媒体のアカウントの名義と管理権限は発注者、IDとパスワード、二要素認証の設定も発注者が管理すると定め、アカウントの停止・凍結・収益化の停止など媒体の側の措置について受注者は責任を負わないとしました。終了後の予約投稿は発注者の指示に従い、指示がなければ維持する、という定めもあります。予約した投稿が終了後に勝手に公開されたり、逆に消されたりする食い違いを防ぐ一文です。

発注者の側の書き方:所有者の名義で作らせ、留置を禁じる

同じ採用支援・Web広告の会社が、外部のパートナー・フリーランスに運用を任せるための基本契約(発注者の側)では、立場が逆になります。ここでは、パートナーが自分の名義でアカウントを作り、契約の終了や報酬の争いのときにアカウントを人質にする事態を防ぐ条を置きました。

外部パートナー向けの基本契約のアカウントの条
場面定め
新たに作るとき広告媒体・解析ツール等のアカウントは、発注者又はそのクライアントが所有者・管理者となる方法で作成する
期間中パートナーは、求められればいつでもアカウントと認証情報を引き渡す。報酬の債権を理由に留置・アクセスの遮断・削除をしてはならない
終了時広告の設定、アカウント、認証情報を含め、直ちに引き渡す
違反したとき引渡し・返還の義務の違反は、賠償の上限の対象外とする

Web制作会社がフリーランスに発注する基本契約(発注者の側)でも、付与した「サーバー、CMS、解析ツール、広告アカウントその他のアカウント及びアクセス権限」は必要最小限の範囲でのみ使い、認証情報を第三者に開示せず、終了時は使用を止めて認証情報を返還又は消去すると定めています。

受注者の側と発注者の側で、名義を発注者にそろえる点は同じです。違うのは、受注者の側の書類が「権限の付与が遅れた間の免責」や「ノウハウの留保」で受注者を守るのに対し、発注者の側の書類が「留置の禁止」や「上限の対象外」で引渡しを確実にしている点です。

未払いのときに止めてよいもの・止めてはいけないもの

報酬が払われないとき、受注者はアカウントを止めてよいのでしょうか。AIを使った発信基盤の構築・運用の追加契約では、依頼者(受注者)の要望を受けて、未払いのときに留保できるものと、未払いでも留保しないものを分けました。

未払いのときの扱い(追加契約の第41条の考え方)

留保できるもの

受注者の側の財産

  • まだ納めていない成果物
  • 成果物の利用許諾

未払いでも留保しないもの

発注者の財産・個人データ

  • 発注者から受け取った提供物
  • 個人データ
  • 発注者の名義のアカウントと管理権限
  • 受注者のアクセス権の削除
  • 認証情報

報告書では、報酬の確保は前払い(報酬の条で定めた前払い)で担保しているので、アカウントや個人データを留保の対象から外すこととセットである、と説明しています。発注者の名義のアカウントを止めると、受注者が他人の財産を使えなくしたことになり、かえって受注者の責任が問われかねません。報酬を守る手段は、アカウントではなく、前払い・支払遅延時の業務停止・配信の停止の条で用意します(支払遅延時の配信停止)。

MAツールの構築・運用の契約で「発注者の支払の遅延中は権限を削除しない」としたのは、これとは別の場面です。削除しないのは受注者のアクセス権で、引継ぎに必要な状態を保つための定めです。発注者の名義のアカウントそのものを止める条ではありません。

終了時の引渡しと権限の削除

終了時の手順は、期限・形式・完了の報告まで書いておくと、引継ぎの漏れを防げます。

終了時の引継ぎ(追加契約の第41条の流れ)

  1. 10営業日以内受注者はアカウントの権限を返還し、アクセスの設定を削除する
  2. 資料の移管ナレッジのデータベース、マニュアル、プロンプトの一覧、コンテンツのカレンダー、KPIのデータベースを、発注者が管理するストレージで引き継ぎ、編集権限を移す
  3. 形式の指定Google Drive・CSV・DOCX・PPTXなどの一般的な形式。特定の事業者のサービスでしか見られない形式は不可
  4. 対象外受注者の名義の外部ツールの契約・アカウントは引継ぎの対象外。発注者が自分の名義で契約し直す

広告代理業務のための秘密保持契約(広告運用の代行会社が使うひな形)では、秘密情報の例として「広告アカウントに関する情報(設定内容、運用実績、アカウント権限、アクセスログ等)」と「広告配信データ(CV数、広告費、CPA、CTR、インプレッション数、キーワード、検索クエリ、広告文、ROAS)」を列挙しました。終了時には資料の返還・廃棄に加えて、「広告媒体におけるアカウントの共有権限その他のアクセス権」を開示した当事者の指示で解除・削除し、完了を書面(メールを含む)で報告します。個人の広告運用者の秘密保持契約でも、秘密情報の例に「広告アカウント情報、ID、パスワード、管理画面情報その他認証情報」と広告データ・配信データ・広告戦略を挙げています。認証情報を秘密情報として明記しておくと、終了後に認証情報を使い続けることが秘密保持の違反として扱えるようになります。広告代理業務の秘密保持契約には、広告媒体の規約と抵触するときは媒体の規約を優先する条も置いています。媒体の規約が権限の扱いを定めている場合に、契約の条がそれと矛盾しないようにするためです。

そのほかの書類でも、終了時の扱いを定めています。粗利シェアのマーケ・制作支援の修正版は、アカウント・ID・パスワードの返却・移管と、データの消去の証明を求めました。HP管理とInstagramの更新管理を受ける個人の契約は、ログイン情報を返還し、自分の端末などから削除すると定めています。MAツールの構築・運用の契約では、設定の一覧の作成と引渡しまでは月額に含め、それを超える引継ぎ(手順書の作成や後任者への説明)は時間単価の個別業務としました。引継ぎの範囲を決めておかないと、終了後もしばらく無償で質問に答え続けることになります。

データ・計測ツール・ドメインの扱い

アカウントと並んで、データの帰属も論点になります。広告主の側からSNS広告の運用代行契約(代行会社の原案)を確認した報告書では、成果物の著作権が広告主に移る点は適切としたうえで、「広告配信データ・顧客データ・分析データ」の帰属の定めがないことを指摘し、「広告運用により取得した一切のデータは甲に帰属する」と明記するよう勧めました。SNS上のショップ機能への出店支援の契約でも、販売用のアカウント、ログイン情報、顧客データ、販売データは発注者に帰属するとし、終了時はアクセスを止めて返還又は削除し、発注者の管理の不備による損害は受注者が負わないと定めています。

計測ツールの権限は、レベルまで決めます。医療法人のSEO記事の制作・投稿代行の契約のレビューでは、Googleアナリティクス・Search Consoleの「管理権限付与」について、具体的なレベル(編集者・閲覧者・所有者など)を定義し、終了時の解除義務も明記するよう求めました。所有者の権限を渡すと、受注者が他の利用者を削除することもできてしまうため、業務に必要な最小のレベルを指定します。

営業の支援でも、データの帰属は同じ構造で問題になります。BtoBのテレマーケティング(リストの作成から架電、アポイントの設定まで)を受けるテレアポ会社の契約では、改訂で、営業リスト・架電結果の記録・報告書・トークスクリプトを成果物として委託者に帰属させ、終了後は返還又は完全に消去すると定めました。クラウドサービスの新規顧客の獲得を営業代行会社に任せる委託者の側の契約では、申込みに至らなかった企業の情報は報告の義務がない一方、申込みに至った企業の会社名とメールアドレスは一定の営業日以内に送る、と分けています。広告アカウントの配信データと同じく、営業のデータも「どこまでを相手方のものとして渡すか」を先に決めておくと、終了時の争いが減ります(テレアポ代行の契約書)。

集客の基盤となるドメインとサーバーも、名義の問題です。HP制作と継続保守を受ける個人の受注者の契約では、改訂でドメイン・サーバーは原則として受注者の名義で契約・管理し、発注者が自分の名義を望むときは別途協議としました。そのうえで、契約が36か月以上続いた場合にはドメインとサーバーの契約の譲渡にかかる費用を無償にする定めを置いています。受注者の名義にするなら、終了時にどの条件で移すかを最初から書いておく、という設計です。

SNSのプロデュースと作品販売の収益分配の契約では、SNSのアカウントは相手方に帰属し、受注者は管理権限を持つとしたうえで、広告収入の入金先の設定を互いに確認し、終了時には管理権限を引き渡すと定めました。収益の入金先がどこに設定されているかは、管理権限を持つ側でないと確認しにくいので、確認の手続を条文にしています。

店舗の集客で欠かせないGoogleビジネスプロフィール(Googleマップや検索結果に店舗の情報・口コミを表示するための管理画面)も、名義の問題が起きやすいアカウントです。パーソナルジムの運営会社(委託者)がトレーナーと結ぶ業務委託契約のレビューでは、店舗のInstagramとGoogleビジネスプロフィールの名義・オーナーの権限・ログイン情報を誰が持つかの定めがないことを指摘しました。トレーナーが開設者やオーナーになっていると、契約が終わった後、会社は投稿も口コミへの返信も管理できなくなるからです。修正版では、アカウントは会社の名義、所有者・管理者の権限は会社とし、トレーナーには必要な範囲の利用権限だけを付与して終了日に削除し、パスワード等の設定の変更を禁じました。MEOの業者の利用規約では、契約者がオーナーの権限を持ったまま、業者に管理者の権限を付与して共同で利用する形をとり、終了時の権限の解除は契約者の責任としています。どちらの形でも、オーナーの権限を店舗の側に残すことが出発点です。

起きがちなことと、契約書での備え

アカウントの条は、広告費の支払方法や外部パートナーへの再委託の条とつながっています。広告費の負担と精算と外部パートナーとの契約もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

広告アカウントは誰の名義で作るべきですか?

広告主(発注者)の名義で作り、受注者には業務に必要な作業権限だけを付与するのが基本です。事務所の書類では、受注者の側でも発注者の側でも、アカウントの所有権・管理権限・媒体上の契約主体を発注者としています。

契約終了時に、代行会社は何を返せばよいですか?

アカウントの権限の返還とアクセス設定の削除、設定の一覧や運用の資料の引継ぎ、認証情報の返還又は消去です。期限、引継ぎの形式、完了の報告の方法まで契約に書いておきます。

報酬が払われないとき、アカウントの権限を止めてもよいですか?

発注者の名義のアカウントや個人データ、認証情報は、未払いを理由に留保しない設計が基本です。事務所の書類では、留保できるのは未納の成果物と利用許諾に限り、報酬は前払いで確保する構成にしています。

Googleアナリティクスの権限は、どこまで渡せばよいですか?

業務に必要な最小のレベルに限ります。レビューでは、編集者・閲覧者・所有者などのレベルを定義し、終了時の解除義務を明記するよう求めています。

広告の配信データは誰のものですか?

契約で決めます。広告主の側のレビューでは、広告配信データ・顧客データ・分析データの帰属が定められていないことを指摘し、広告運用により取得したデータは広告主に帰属すると明記するよう勧めました。

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本ページは一般的な情報提供です。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた広告運用代行・Web集客支援・マーケティング支援の業務委託契約書、MEO・SEOサービスの利用規約、テレアポ・アポ獲得代行・営業代行の契約書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 表示対策(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)

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